InterFMの「5years Radio」に36回、37回と出演しました。
36回は前職の編集者時代の話や子供の頃の原風景、そしてなぜ八百屋になったのかの経緯をお話ししました。後半37回に主に現在のアネモス青果につきまして話していますので、(許諾を得て)書き起こします。マスヤマ様、内田様ありがとうございました。
*ラジオの雰囲気を残すためにあえて文章を整えておりません。
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テーマは「八百屋の未来」
マスヤマコムさん(以下、マスヤマ)
今日のテーマは八百屋の未来、アネモス青果代表の浅井裕子さんにお越しいただいています。
内田まほろさん(以下、内田)
先週からだいぶ野菜に対しての解像度が上がってきた感じなんですけれども、アネモス青果では仕入れの種類が青果市場、地方の八百屋さん、あとは生産者さんと3種類あるとうかがっていて、なんとなく産直がいちばん良いんじゃないか?というのがあるんですけれども。
マスヤマ
素人的にはね。
内田
間に卸がいるという意味がすごくあるとうかがいましたが。
アネモス青果浅井(以下、浅井)
そうですね、後発の八百屋になりますので、特色を出していくのであればどこかの産地限定の、うちは高知の仕入れが多いんですけれども、たとえば高知専門八百屋ですなんて言ったら、ウケはいいのかもしれないですね。
マスヤマ
確かに。
浅井
でも、実際にはそうではなくて、卸売市場、とくに大田市場で、時々豊洲市場にも行って仕入れています。
内田
あの「惑星」ですね。
浅井
あはは。SNSでわたし、卸売市場に早朝に行くときに「惑星に行ってきます」と書いて行っているので。
内田
缶コーヒーの宇宙人のイメージで。
浅井
そのイメージで。向こうからすれば、元々雑誌の編集マンをしていた女性が来るなんていうのは宇宙人が来る感じなんだと思うんですよね。
内田
イメージぴったりですよね。
浅井
まあ、まったく未知の世界で、朝の6時ぐらいに卸売市場に行って、競りはまだ参加できないんですれども、競り場であれ買いたいこれ買いたいと仲卸さんと相談しながら仕入れをしています。
卸売市場の機能っていうのは非常に本当は重要なんですけれども、わたしが惑星と呼んでいるようにみんな全くよく知らない…
内田
知らないですね、確かに。
浅井
だと思うんですよね。わたしも通うようになって初めて知ったことがたくさんありますけど、日本の青果流通の9割がいまも卸売市場を介在しています。産直マーケットは確かににぎやかなんですけれども、農家さんから直接買う、あるいはJA直売所的なところで買うのと卸売市場は何がいちばんちがうかというと、そこには目利きがいないんですよね。たとえば農家さんと直接取引しました、農家さんがたまたま素晴らしければ、そして消費者の方が満足すればそれでいいんですけれども、ひょっとしてその品物は卸売市場では300円のものかもしれない。それを農家さんの手取りを多くするという意味で600円で売っているかもしれない。いいんですよ、途中で中間マージンも乗りますから全然かまわない。金額の問題じゃないんですこれ。その品物は全体に品物がたくさんある中で、どれぐらいのグレードのものかということを誰かが目利きしているかということが重要なんですよね。
実際、青果には等級というものがあります。いちばん上に特秀、秀、優、○とか良とかCとかEとか、呼び名はいろいろありますが、じゃあ自分が扱いたいものがどこのゾーンのものなのかというのは非常に重要なことなんですね。
わたしは料理業界にいたので、よりおいしいもの、名人の方がつくっているけれどもなかなか手に入らないものを食べてきました。おいしいもの。この自分がおいしいと思うものを飲食店の人とか消費者のお客様たちと一緒に分かち合いたいと思ったときに、等級というのは非常に重要なファクターなんですね。
農家さんを直接知っていればその方から仕入れるんですけれど、知らない場合も多いじゃないですか、全員農家さんを知っているわけじゃないから。そうすると何を基準に小売が青果物を仕入れるかといえば、等級と価格は非常に重要なことなんですね。
だいたいスーパーマーケットさんで野菜を買われると思うんですが、中間のゾーン、普通品というのはたくさんあってボリュームゾーンなので、いろんなお店で売られています。ところが、特上のもの、とびきりのものはデパートさんだとか贈答品だとか、三ツ星レストランとか、そういうところでしか目にすることがない。
それをもっと目にするかたちで、あるいはもっと食べていただけるかたちで、末端のエンドユーザーの方にも知られるにはどうしたらいいのかなというのがあるんですよね。
(曲)
内田
そのプレミアムのお野菜を売るということで、小売店をされたという、そこにこだわりがあったのかなと思うんですけれども。
浅井
小売店は、面白いですよね!横浜・・・
内田
面白いですか、大変そう!!
浅井
ほんと大変は大変なんですけど(笑)。何が面白いかっていうと、知らなかった野菜にもチャレンジする人が目の前に出てくる。わたしが説明をしてこんなかたちで食べた方がいいですよとおすすめしたのを、素直に買っていてくれて、翌週来て「あれおいしかった」と言ってくれる。これ、すごい驚きがあります。
わたしいままでメディアの仕事をしていたから、文字と写真と紙を介在して情報をみなさんにお届けしていた。でも、それほんとに届いているのかな?という漠然とした不安はあったわけですね。ところが小売店というのは素晴らしくて、目の前で答えが出る。本当に、やりたいことがすぐに答えが出るというのは、すごいことだなと思っています。
あんまり料理をされなかった方でも、いまではマニアックな野菜を買っていくこともあった。その成長を見て良かったと思って、本当に感動しました。横浜のお客様がほんとうに素晴らしくて、知らないものを食べるというのは、ある意味身の安全にかかわることです。野生からいえば知っているものを食べた方が絶対安心なんですけど、それだけ、おいしいものを食べたいという気持ちと、わたしを信用してくださって、この人の言う通り食べてみようっていうことが起こる。これが、横浜の、間借りなんですけど、小売店のすごいところです。
内田
食育の出版社の予定だったのが、ほんとうにリアルに食育してるってことですよね。
浅井
いま出版部門の計画は止まっていますけれども、ほんとうこれがリアルな食育、大人の方にも食育って、食べていただくことだなっていう発見があります。
内田
そうですね。
(曲)
内田
浅井さんが八百屋を始めたきっかけのひとつに、生産者さんたちの匠の技というのがどんどんなくなっていくという危機感があったとうかがいましたけれども。
浅井
はい。当然どの業界にも名人と言われる方はいるんですけれども、年代的には60代から70代ぐらいの方の中に一世代を築いた名人の方がいらっしゃって、まだ現役なんですよね。青果の世界でも、どんどん引退の危機が迫っています。
内田
どこもそうですねえ。ものづくりとか工芸でも。ほんとにそうです。
浅井
おそらく工業とか車の産業とかいろんなところでも日本の「ものづくり日本」を支えてくださった世代の方たちの引退の危機が迫っていまして、これが野菜果物の世界でもご多聞にもれず起こっていることなんですけれども。それをどうしたら食い止められるのか?と雑誌編集マンだった頃には思っていたんですが、辞めて、八百屋になってみると、一人のできることの少なさに愕然とするんですよね。
日本の野菜は非常においしくて、多品目で、狭い国土なのに多収ですよね。料理という観点から言っても、飲食業も非常に盛んだからなんですが、その中に多彩な品目の野菜が入っているという意味では、他の国に胸を張れる野菜王国だと思っています。けれども、ジャパンブランドを支えた方たちの引退が迫ると、だんだん技術力が下がっていくと予想されます。じゃあ、どうすればいいのか?
できることは、名人の青果をできるだけ買いたいと広く思わせる、それからその仕事を継ぎたいと思わせる。このふたつ。
内田
かっこいいぞと。
浅井
料理人の世界も、八百屋もそう、「あの仕事になりたいな」って仕事って廃れないんですよね。で、農業も八百屋も飲食業も、そういう仕事にしていきたいと思っています。どうすればっていうのは、プレミアムのマーケットを一生懸命開拓して、一生懸命売る。まずわたしができることは、いまそれなんですね。
内田
かっこいい生産者さんたちを応援しつつ、かっこいい八百屋。
浅井
おいしい、かっこいい、技術が高い、いろんな言い方はありますが(笑)。
内田
そこが全部プレミアムってところに込められますね。
浅井
あの・・・デフレを巻き戻したいと思っている一人なんだけど、デフレの結果、標準化された野菜が“あればいい”という時期があったんです。いまちょっと戻ってきていますけれども、効率を求めると品物は標準化され、接客は無人になり、レジは無人になり、あらゆることがオンラインになる。そうすると買う側は知っているものを買えば安心だわとなって、チャレンジしなくなるんですよね。大人がチャレンジしないと、こどももいつものでいいという舌のまま育たなくなってしまうので、多様性を維持するということは非常に野菜の世界でも重要なことだと思っています。
内田
はぁーーっ、すべてに言えますね。これは深い話。
(別コーナー)
内田
先週今週とお話をうかがってきて、非常に複雑な背景を八百屋っていうかたちで解決しようとしてるんだなっていう浅井さんの活動なんですけれども、もう活動ですよね本当に、商売っていうより、もはや活動。
浅井
なんなんでしょうね、商売でなければならないとは思っていますけれども、少し、やはり編集マンだったので広い視野で見る癖はついています。
内田
八百屋として3年目ということですが、これから5年先、どうして行こうと?プランは?
浅井
アネモス青果のおかしなところは、いま横浜のお客様たちは非常に楽しそうに帰って行かれるんですが、「今日も楽しかったわ」とか「通っちゃいたくなるのよね」という言葉を残してくださるんですよね。わたしも元々は言葉の人なので、それに非常にビカーンッと雷に打たれたようになりまして。通っちゃいたくなる八百屋って何なんだろう?と自問自答した結果、じゃあ、それをずっと続けていけるような商売をめざしたら、もしかして自分のめざしている野菜の未来に近づいていけるんじゃないかなと思っています。
野菜だけじゃなくて、もちろん果物とか、いまお豆腐とかチーズとかも扱っているんですけれども、編集マン時代にジャンルレスで仕事をしていましたが、それと同じことで、野菜を扱う八百屋という名前だけど、都市型の食料品店のちょっと変わった・・・
マスヤマ
セレクトショップ的な?
浅井
そうですね、そういうかたちになっていけたらいいなと思っています。ま、いまほんとうに第一歩を踏み出したところ。自分でも、本をつくっていた人間が食料品店を出そうと思っているということが、毎日おかしくてしょうがないんですが、でも、出したくてしょうがない。これが幼児体験というかこどもの頃の原体験に、新宿の商店街で、伊勢丹の方とか高野の方たちに可愛がられた自分ができる恩返し、ということでもあると思うんですよね。
内田
わたしも自分のキュレーターという職業は宝物を守る仕事だと思ってるんですね。浅井さんのこの活動は、食のキュレーション、ちゃんと宝を守っていくという活動だなと改めて感動しました。
浅井
一緒にがんばっていきましょう。
内田
はい!がんばりましょう!
マスヤマ
わたしは今日浅井さんとは初対面なんですけれども、非常に筋道をたてて物静かにお話になるんですけれども、八百屋さんっていう感じでは全然ない。だけど、八百屋って言葉でいうのは簡単ですけど、そんなにやれることじゃないじゃないですか。そこにね、静かな情熱を感じました。