蛸のサンダル10(2017.4.6) こっそり / 蛸 by 中澤希水(書家)

蛸のイラストはいつも突撃依頼&現場で描いてもらうのをモットーとしています。みなさん「えええええーーーーっ、いま?」と内心思っているだろうに、笑顔で受けてくれてありがたい限りなのですが、わたしは発見しました。ひとり、こっそり練習した方を!

その方と、完成形のイラスト。蛸よりイカがいいというので、イカの高下駄。著名な書家の中澤希水さん。希水さんにとって、書、イラスト、ロゴなどはすべて作品。つまり書くプロフェッショナル。こちらのイカも愛らしさとセクシーさが滲み出ております。文句なし。迷わずよくササっと描けますね~、さすが!と思ったら、希水さん、ノートを机の奥に押しやろうとしています。あれ? ちょっとちょっと!それ見せて!

「あははー、こそ練しちゃった」

希水さん、練習を見つかって照れ笑い。練習といってもハイレベルなんですけど? 左から右へ、ポーズとバランスがだんだん決まっていき、目の位置があるべきところへ収まって完了。足の角度は入念にアップで。なるほどー。希水さんは書道家のご両親のもとに生まれ、1歳ごろからずっと筆とともに成長してこられたという。中学高校も所属は書道部。しかし練習ぎらいで、合宿でも合同練習の時間はずっと絵を描いてやり過ごし、夜、みんなが寝静まってからこっそり字を書いていたのだという。「基本的にさらりと書けるふうでいたいんですね、カッコつけて」。古典を見直し、美しい芸術に学ぶ姿勢は、人が思い描く「書家」の姿そのものなのに、眉間にシワを寄せて筆を振り回すことは好まない。練習は基本こっそり。風のように、水のように、お名前のように。

話は変わるけど先日、東京で高知の在来豆を食べる会がありました。さまざまな色の大豆やインゲン、大きな落花生、薬効成分が高いのではないかとみられる幻の八升豆(調査中)。在来の野菜以外に、在来豆という未知未踏のテーマが全国にあるのだと思うと、食の世界の奥深さにため息が出る。忘れ去られている食のすべてを探し掘り起こすには、人生は短すぎる。

右下が土佐在来豆たち。試食用にゆでたものも。土佐在来豆の説明を受けたのはパティシエの皆さん。昨年「洋菓子材料図鑑4号」というムックで、愛媛と高知へ柑橘ツアーをご一緒した方々。パティスリーレザネフォールの菊地賢一さんにも蛸イラストを描いていただきました。在来豆が本当にお菓子になるのかしら?

まったくわかりませんが、来シーズンを期待して気長に待ってみましょう。おそらく凄腕のプロのみなさんのことだから、こっそり試験を繰り返し、何気ない顔でおいしいものを出してくるに違いない。プロとはきっとそういうものであります。


Author

Yuko Asai
東京都・新宿区生まれ。
外食産業と料理の専門出版社で編集者として勤めたのち、独立。
食産業の発展のため味の技術の言語化を追い求め、畑から食卓まで、あらゆる食の仕事を見つめ続けている。
『蛸のサンダル』は2016-2018年に連載していた作品。

関連記事