イサキのサンダル by 植竹隆政
蛸のサンダルも連載12回、つまり一年を迎えました。すごいなあ続いたなあ頑張ったなあ、いやいやダラダラコラムなんだから当たり前か。改めてプロフィールを読むと、文末に「趣味はベランダ園芸。今夏はジャガイモとナスを栽培中」とありますが、実はその後すぐ両方とも枯らしてしまったんですよ。しかし、ジャガイモはこの春リベンジして、先日収穫の時を迎えました。
ジャガイモ
収穫したジャガイモ。品種はキタアカリ。芽が赤紫色のため、芽のあたりがほんのり赤い性質をもつ。2株で25個程度できました。園芸を始めるまでも編み物だとかなんだとか、趣味っぽいことはあるにはあったけれども、園芸が一番長く続き、情熱を持って趣味と言い切れるものになりました。食べられるものは少ない(この春はネギとジャガイモ)。でも植物を観察し、生理的メカニズムについてあれこれと調べたり考えたりすることは、本業の食の仕事にも通じる部分があって飽きない。植物たちが彼らにしかわからない電子イオンや波動、ホルモンなどによって情報交換をしているだとか、彼らに益する動物かどうかを見極めているらしいだとか、覗き見る未知の世界は奥深く、ワクワクしてくる。
最初に買ったのは草花。その前にいただいたのも小さな花だった。すぐに枯らしてしまった。諦めが悪いわたしは、ある日デパートの屋上で見つけた赤いバラの苗を買ってきた。真夏だがつぼみがついていて、すぐに翌日、蜜のようないい香りで花開いた。そして何年も元気に繰り返し咲いてくれた。簡単じゃないか、草じゃなくて樹を買えばいいんだ。
最初に買ったバラ園芸書にはこんなことが書いてあった。
「1鉢だけだと枯れた時にショックが大きいので、2鉢から始めるといい」
愛しすぎてはいけない、失った時にショックで立ち直れない、という。他のノウハウのどれよりもその言葉が重要なメッセージに聞こえて、いそいそと2鉢3鉢と買い込んだのだが戦略に乗せられただけなのか?わたしはバラ栽培に夢中になり、いくつも株を増やした(現
存している)。
ある日、バラでいっぱいのベランダに、バラ以外の植物を置いてみた。近所の園芸店通いのおかげで種類はだんだん増えていき、気がつくとベランダで緑がモサモサ茂っていた。植物はいろんな種類が周りにいると生育が安定するらしい。競争原理で強くなるのか、多様化社会なのかはわからないが、不思議なことだ。新しい株が来たら「あ、ここ大丈夫みたいよー」とでも、交信しているんだろうか?
公園に行って立派な樹を眺めるのも好きになった。見知らぬ街に行っても、植物が目に止まれば安心するようにもなった。重度の植物好き患者の出来上がり。いつか、いとうせいこう氏とじっくりお話ししたいものだ。
さて、今回の蛸サンイラストはこちら。
脈絡がないじゃん、蛸じゃないじゃん、初めての「イサキのサンダル」。多様性が大事ということで。描いたのは「リストランテ カノビアーノ」の植竹隆政シェフ。ニンニクと唐辛子を使わない自然派イタリアンというオリジナルな境地をつくり上げた方。今年(編注:2017年)5月に代官山から本店が移転し、目黒のホテル雅叙園東京内にオープン。バンケット機能もあり、プール付きテラスも備えたゴージャスな店舗になりました。
今月の16日には高知「潮江旬菜」の熊澤さん(蛸のサンダル第7話登場)主催の、生食可能なスーパースイートコーンを食べる収穫祭が新生カノビアーノで開催される予定。この日は大勢の食関係者が集まるため、わたしは密かに(蛸のサンダルイラストを描いてもらおう)と狙っているのであります。ここに書いたら密かじゃないか、ま、いいか。頼んだ方はよろしくお願いします。当コラムの2年目があれば、順次掲載されます。終了と言われてないからつづくはず、おそらく、たぶん、きっと。
[お断り]このページの情報は2016〜2018年掲載当時のものです。

Author
Yuko Asai
東京都・新宿区生まれ。
外食産業と料理の専門出版社で編集者として勤めたのち、独立。
食産業の発展のため味の技術の言語化を追い求め、畑から食卓まで、あらゆる食の仕事を見つめ続けている。
『蛸のサンダル』は2016-2018年に連載していた作品。

