
前回登場していただいたカカオハンター小方さんに影響されて最近、家でカカオの木を育て始めた。そう言うと小方さんは半ば苦笑しながら「外気温が18℃を下回る季節は室内に取りこんでください」と教えてくれた。したがって、ただいまカカオの木が窓辺の一角ですくすくと育っている師走なのであります。ベランダの隅では寒さで勢いを増すダイコンとネギの鉢が我が世を謳歌している。ベランダローズガーデンを目指していたはずなのに、いつの間に、うちは食べる植物ばかりになったのだろう?
さて、今回は、非常に興味深かった本をご紹介したいと思う。
『新装版 イカはしゃべるし、空も飛ぶ ~面白いイカ学入門』(奥谷喬司著 講談社ブルーバックス)。イカが体色の変化を使ってイカ同士通信をしていることや、イカの身体の構造や種類の違いなど、語り口もユーモアがあって笑いなしでは読めない本なのだが、中でも面白かったのは、イカという言葉について。『新釈魚名孝』(栄川省蔵著)によると、イカの「イ」は語声強調の接頭語で、カは「食(ケ)」がなまったもので、食用にされるべき動物の呼称、イカは海の幸の代表というより、食べ物そのものだったという指摘が掲載されている。つまり、イは英語で言えばthe(まさにそれ!)、カはfoodと言うわけで、縄文人か弥生人か不明だが、古代日本人がイカをさして「the 食べもの!」と言ったのが語源なのだという。
この話はそれ以上解説がなく、わたしは不思議な印象をもったまま読み進めた。なぜ、イカが当時の食べ物の代表格なのだろうか?縄文時代には陸稲や栗も栽培していたそうだし、鹿や猪、アザラシなどの海獣の方が、陸地や沿岸で獲れるからイカよりも身近な存在だったのではないか?イカを獲るには船がいるのである。縄文時代の人々の多くは漁労民で沿岸部を船で行き来し、貿易も行なわれていたようであるし、鰹漁もあり、鰹節の原形となる調理済み食品もあったという。イカも確かに獲れるときは多く獲れ、干して保存するのも簡単とはいえ、すべての食べ物の中で最優位に立って「イ (the)!カ!(食べ物)」と興奮するほどのものでもないように思えた。
しばらく、この謎が頭の中を離れなかった。本は後半に差し掛かり、深海のダイオウイカやニュウドウイカなどの巨大イカはアンモニアが多く含まれるので人間が食べてもおいしくないという話になった。ところが、クジラにとっては格好の食料だと書いてある。その時、わたしの脳内に、ある光景が浮かんだ。浜に打ち上げられたか、漁で追い込んだか、古代の人々がクジラを食べようと解体している。野生のセオリーで、おそらく鮮度のいいうちに栄養豊富な内臓から食べるだろう。クジラの巨大な胃袋を切り開く。そこから未消化の大きなイカ、あるいは大量のイカが出てくる。古代人たちはハッとする。あ、この大きなクジラ(名称があったかはわからない)も、オレたちと同じアレ食べている! アレが共通の”食べもの”だという「発見」「気づき」があって、「イー!カー!」が発せられたのではないか??
ね! すごいでしょ!と宴会でこの仮説を熱くぶち上げたのだが、周りは苦笑している。例の年上の悪友の彼などは「ほらな? 今度はイカに夢中だよ」と他の皆さんにウインクする。いつも何か勝手に夢中になって、調べて追いかけてばかり、変わった女だという。だってしょうがないじゃない。気になるんだもの。
変わった女には変わった友だち、ということで、最後に友だち2人の蛸イラストをご紹介します。
本職の占い師、彌彌告(みみこ)ちゃん。本当に当る占い師として、最近女性誌に引っぱりだこ。蛸イラストは、可愛い系ですね。
インディゴ望月さん
蛸のサンダル by Indigo
ハイブランドの凄腕プロデューサー、インディゴ望月さん。ファッションブランド、インテリア、レストランなどのブランドプロデュースを手がける。イタリア語、フランス語、英語、スペイン語を操る彼女の蛸は、どこかヨーロッパ風味。
二人とは数年前、出雲まで一緒に旅をした。大人になってからの、出張ではない友旅は新鮮だった。出雲大社に行く前に、美保神社へ詣でたら、参道にイカがえんえんと干してあった。先ほどの本によれば、現存する「イカ」の名の初出は『出雲風土記』(733年)だという。そのころの出雲でもクジラは獲れたんだろうか? そんなことが、次はひどく気になってきてしまい、妄想はまだまだ止まらないのであります。
[お断り]このページの情報は2016〜2018年掲載当時のものです。

Author
Yuko Asai
東京都・新宿区生まれ。
外食産業と料理の専門出版社で編集者として勤めたのち、独立。
食産業の発展のため味の技術の言語化を追い求め、畑から食卓まで、あらゆる食の仕事を見つめ続けている。
『蛸のサンダル』は2016-2018年に連載していた作品。
